人事のいろんなこと・・・

人事部門のマネジメントをしています。日ごろ考えたこと、印象に残った本などを紹介していきます。

ノーレイティングスが今、注目される理由とは?

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はじめに

 

ノーレイティングスという評価方法が注目されるようになりおおよそ5年といったところでしょうか・・・。人事制度に携わる人事担当者ならば、知っている人が多くなってきました。

 

2017年4月のHarvard Business Reviewは、「人材育成」が特集され、人事評価のトレンドとしてノーレイティングスを導入すべきか否か、の特集がありました。この記事では、GEやMSのようにノーレイティングスを推奨する企業がある一方で、Facebookのように評価ランクの必要性を提唱する企業も残っており、シリコンバレーの企業のすべてがノーレイティングスに向かっているわけではない、という客観的立場で構成された興味深い特集記事でした。どちらも論理性の高い主張が特集されていました。

www.dhbr.net

また、人事系の専門誌である「労政時報」は度々、人事制度の導入事例を特集記事にしています。硬派な雑誌でありますが、2018年7月の労政時報ではじめて、ノーレイティングス導入企業の事例が特集されました。


ネット上でも雑誌でも次第に注目を高めるノーレイティングス。
人事担当者はノーレイティングスを理解し、自社に導入したと仮定した場合のPros/Consを検討すべき時期になっていますね。
そこで今回は、ノーレイティングスがなぜ注目されているか、について解説していきます。


■ノーレイティングスとは何かがわからない方は、こちらのサイトに詳しく解説がありますbizhint.jp


ノーレイティングスが注目されている理由


(1)そもそも個人の成果を定量的に図ること自体に無理があった

 成果主義による人事制度が一般的なものとして確立した2000年前後になると、公正性・公平性の観点から問題点がいくつか浮かび上がります。その後は、論理的な整合性を高めていくようなきめ細やかな人事制度が開発されるようになりました。

 

その一例が、目標の点数化をより精緻にして業績評価を行い、賞与等に反映するデジタル型の目標管理制度です。目標達成基準を定量的に測れるようにした目標を期首に設定し、期末にはその得点をつけ、合計得点の大きさをそのままもしくは一部他の指標を加えて、業績評価に反映するしくみです。
簡単な目標ばかりを並べて達成したとならないように、評価がより整合性のあるものにするために、目標にウェイトを設定したり、目標の難易度を設定したりと、より一層制度が複雑なものになった制度もあります。
より専門的で盲点が少なそうな制度が多くの会社で取り入れられました。

 

しかし実際にはうまくいきませんでした。すべての目標を定量化しすぎるあまり、強引だったり意味のない達成基準になってしまい、目標を立てる側も違和感のある目標管理制度になることがたくさんありました。

また、いくら定量化をしても、最終的な評価を決める際には他の要素が加わり、目標達成度だけで処遇を決める業績評価が決まるという運用にはなりませんでした。
期首に定めた目標だけを達成しても、期中で目標が変わったり、新しいミッションが課せられたりするので、目標達成度以外の要素が加わるのは自然な流れでもありました。

 

2000年代後半頃になると、目標達成度の評価(点数)と、処遇を決める業績評価を切り離して運用する制度が増えてきました。その結果、得点の横並びで全体的な評価を決められなくなったため、評価者の説明責任が求められるようになりました。説明責任を果たすためには、マネジメント力や日頃の信頼関係が必要ですが、きちんとマネージャーを教育していないと機能しませんでした。その結果、被評価者のモチベーションを高めるための人事評価であるにもかかわらず、逆に下げる結果につながることが多く発生しました。

 

そんな問題の多い人事評価・・・。時間をかけてやっているが、逆に悪い原因を作っているのでは?そもそも評価なんかないほうがいいんじゃないか?
このような背景もあり、ノーレイティングスは画期的な考え方として注目されるようになりました。


(2)恣意的な評価が発生し、評価制度の不信感が解消しない

決してあってはいけないことなのに、どの会社でもあるのが「評価を好き嫌いで決めること」です。


好き嫌いによる評価を防止するためには、人事評価の担当部門がかなり頑張らないと減らないです。たとえば、評価実施前にはきちんと評価者に通達し、評価者向けの研修を定期的に実施し、評価者会議で不整合を指摘し評価オペレーション終了後にきちんと振り返りを行う・・・などなど。


こういうことをきちんとやっていると、評価者の中で「好き嫌いで決めちゃいけないんだな」という意識が自然に醸成していき、ちゃんと評価が機能するようになります。
これは前回のブログでも紹介しましたが、人事評価で重要なのはやはり運用です。

人事評価は運用で決まる!人事部門が取り組むべき運用の3つのポイント - 人事のいろんなこと・・・

 

残念ながら一度恣意的な評価が行われると、運用だけでなく、しくみ自体に問題があると思われがちです。人事評価制度を変えるべきではないか、最近はどのような評価制度が主流なのか。そんなことを考えている中で、今までの常識を覆すようなしくみがアメリカからやってきている・・・。

これもまた、ノーレイティングスへの関心を引き寄せるポイントになっているものと思われます。

 

(3)仕事の複雑化とメンバーの多様化

評価を決めるためには、評価者である上司が被評価者である部下の仕事ぶりについて、評価できるだけの情報を持っているということです。ところが、VUCAと呼ばれる今日のビジネスの現場では、リーダー自身も予測不可能なことが多く、旧来のようにリーダーに集中していた権限や意思決定にばかり委ねていては、競争に打ち勝つことができなくなっています。


このような背景もあり現在では、意思決定の権限をリーダーに集中させるよりは、メンバー一人ひとりがそれぞれの担当領域で成果を出し、互いのメンバーで意見を出し合いながら成果を高めていくチームを作ることがリーダーの仕事であり、そのほうが成功可能性が高まるといった考え方に変わりつつあります。

VUCA時代のリーダーの役割 ~その1 リーダーの役割が変化している背景は?~ - 人事のいろんなこと・・・

  

新しい時代のリーダーの役割では、リーダーがするマネジメントよりは、様々な環境変化にいち早く対応して能動的に意思決定を行うメンバーの育成と、そのメンバーをサポートするリーダーシップが求められます。すべての仕事の進捗を把握することよりは、仕事が進捗するようにサポートすることが期待されているということなのです。

 

この期待役割の下では、すべての仕事の成果管理することには限界があります。つまり、日頃から部下を観察して人事考課を行う、という成果主義の前提自体が限界をむかえています。また、1年や半年という決められたサイクルの中で評価することもどんどんそぐわなくなってきており、画一的な評価制度をすべての社員に適用することが非現実的なものになっています。

 

また、最近では育児や介護を抱えた社員が職場にいるケースが増えてきました。外国人の社員も増えており、働く時間や価値観が多様化しています。それだけでなく、実現したいキャリア感も多様化しており、昇進やポストを動機づけ材料にしても、全員が響くものではなくなってきているばかりか、むしろ時代錯誤で逆効果と捉えられかねません。良い評価であれば、早く等級が上がり、早く出世する、そのような方法だけでは
チームのメンバーを引っ張ることができない時代になっているのです。


以上をまとめると、成果主義型人事制度は、その構築や運用をめぐり、約20年間様々な試行錯誤と改定がなされました。なかなか解決する方法が見つからなかったこと、時代のニーズが大きく変わってきていることもあり、ノーレイティングスへの関心が
高まっているのではないでしょうか。